Creator's Value クリエイターズ・バリュー

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Creative Seeds Award ‘16表彰式の後に行われた、大塚いちおさん、甲谷一さん、内田喜基さんによるトークイベント「できるデザイナー・イラストレーターの超仕事術」。今クリエイターに求められるものとは? 最前線で活躍するトップクリエイターの働き方、仕事の秘訣とは?

三嶋康次郎編集長(以下三嶋):10年以上デザイン誌の編集に関わってきましたが、近年、広告、デザインなどの業界の目覚しい変化を肌で感じています。1970年代、80年代は広告業界の黄金期で、高度経済成長、バブル期に煽られ、企業が大量の予算を投下して、広告クリエイションは大規模に行われていました。不況が続く現在、企業において真っ先に削られる予算が宣伝広告費とも言われています。クライアントはクオリティを落とさずどうやって予算を削っていくか、クリエイターは目減りする仕事をどう受注していくか、ここ10年はそんな暗中模索の時期だったのではないかと思います。

今回、ご登壇いただいた大塚いちおさん、甲谷一さん、内田喜基さんは、デザインノート創刊時くらいからお付き合いをさせていただいてます。今も尚、第一線でますます活躍の場を広げている、お三方の上手くいく仕事の秘訣を「できるデザイナー・イラストレーターの超仕事術」と題してお話いただきます。
さて、今回協業いただいているピクスタさんは、クリエイターにとって斬新なビジネスモデルをつくり、メディア制作の現場にも現代的なクリエイションの作り方を提示され新風を巻き起こしてます。また、この渋谷ヒカリエという素敵な会場をご提供いただいてるレバテックさんのように、クリエイターと制作会社のマッチングするシステムで、クリエイターたちが効率よく仕事場を見つけることを実現しています。
そこでまず、みなさんにお聞きしたいのが、実際に現場で仕事をされていて、このような近年の業界の変化をどのように受け止めていらっしゃいますか?

大塚いちお(以下大塚):私はまさにデザイン、イラストを仕事にしようと思った時期がバブル経済真っ盛りでした。当時、あらゆる公募展に出品するのが私の出発地点で作品は原画を直接搬入や郵送してました。修行をしていた気分でしたね。逆に今はインターネットやSNSの発達で、気軽に自分の描いたものが見ず知らずの誰かに届く時代で、便利な時代だなと思います。絵を描くことを仕事にするのはハードルが高かったのですが、今は個人で絵を描いたり、何かをつくったりすることが、仕事につながりやすいですよね。

甲谷一(以下甲谷):私はイラストを描かないので、話がずれるかもしれませんが、若い時はやりたい仕事がなかなかできなかったので、フォントをつくってタイポグラフィのコンテストに応募したりしていました。ただ、結果が出たからといって、がらっと人生が変わるというわけではなく、いくつか積み重なって、それがいつしか信頼につながっていったなと思います。コンテストは選者が決まっているので、その人の感性に合わなかったら、賞から漏れてしまうこともありますが、ピクスタさんはアップしたものが、国内あるいは海外の人にもダウンロードしていただける。その喜びがやりがいに繋がると思います。

内田喜基(以下内田):私も最初はイラストレーターになりたいなと漠然と思っていました。今はメディア発信がしやすいですが、当時は氷河期といわれたバブルの後で就活をはじめたので、まず手に職をつけるために、グラフィックデザイナーになったほうがいいと、大学の先生に言われました。「イラストレーターになりたいのに、グラフィックデザイナーになるなんて」と当時は思ったけど、ありがたいことに今、ここで話せるような立場になりました(笑)。

三嶋:内田さんは大手クライアントの仕事をするなか、京都の老舗のブランディングの仕事につながったプライベートなグラフィック制作にも取り組まれ、やりたいことを実現されているように感じます。

内田:運と環境が良かったと思います。有り難い事に雑誌に載せていただいた時、受賞歴がなかったので「これではいけない、頑張ろう」と思って。木版画をデザインに置き換えたら良いクリエイティブな作品ができるかと思い、たまたま職人の方に電話したら、それが縁で仕事になりしかも他の職人さんも紹介してもらい、多くのクライアントさんとつながっていきました。当時は行動的でフットワークが軽い感じで活動していました。

三嶋:一方、イラストはヒットしたら良いですが、そうでない場合は茨の道だと思います。

大塚:みんなにいいねと言われた瞬間から、自分の作品が古くなってしまうんじゃないかと思うことがあります。自分で良いなと思っても、人から何も言われないと落ち込んだりもします。変わっているねと言われると、仕事にならないんじゃないかと思ったり(笑)。何の仕事をしてもそういった不安はつきまとってくるものです。

三嶋:作品の完成はどこで決めるのでしょうか?

大塚:完成したと思うじゃないですか? でも、よせばいいのに、この線が気になるなと思うと、直さざるを得ない(笑)。2枚目を描いても、結局1枚目のほうがよかったりします。イメージができているので、最初がよかったのに、と思ったり。でも、これが広告や建築などたくさんのスタッフとやっている仕事だと簡単に作り直すことはできませんが、イラストならできちゃうので、たくさんの失敗から経験を積ませてもらったなと思いますね。

甲谷:私は自分が納得できることがベストだと考えています。効率は極端にいえば度外視ですね。ただ、納期があるので、その範囲内で完成させます。もっとブラッシュアップしたいと思う時もありますが、約束を守ることは大事です。

三嶋:納期も含めて、みなさんにとって、最高の仕事の仕方というのはどんなものですか?

内田:アートディレクターとして広告を作る時はカメラマンやスタイリスト、ヘアメイクなどチームで連携することが多いので、経験値があって、仕事がやりやすい人たちとチームを組むと、スムーズにできますね。

大塚:イラストレーターは一人で絵を描く事が多いと思いますが、たまたま今はデザイナーなどスタッフがいるという環境が仕事に生きています。「前にやったあれはどうかな?」とか聞くと「あそこがよくないですよ」とフランクに言ってくれるので、一人で考えられる以上のアイデアが出たりします。それから、今回は「FLOWER」というテーマで募集しましたが、花ってこうだよねというイメージをクリエイターは常に超えていかないといけない。でもそうすることで、最近はジャンルの枠すらも飛び越せるんじゃないかなと思っています。極端な話、クリエイターのイメージの広がりの結果、そのイメージの動画や音楽を作ったりすることも可能になってきていて、そういう飛び越える意識を持つと、もっとすごい作品が生まれると思います。

甲谷:私の場合は妻もグラフィックデザイナーなので、一緒に仕事をしています。良いパートナーとして、的確なアドバイスをもらっていますね

三嶋: CSAは一般公募でしたが、広告制作は複数の制作会社やクリエイターなどによるコンペがありますよね。特に近年、十数社の競合になることもあり、そこから本当に一番いい案が選ばれているのかな? と思うことがあります。

大塚:コンペについて言えば、私も時々参加しますが、選ばれたもの以外にも良い作品がたくさんあるじゃないですか。もっとクリエイターを信じて「こういうものがあるので、一緒にやりませんか」と相談してくれたら、もっとじっくりできるし。制作には時間も掛かるので、もっと効率よくできるのにと思います。今はリサーチするのも簡単じゃないですか。どういうクリエイターがいて、どういう性格かとか。コンペに応募して来たものよりも、そうやって見つけてきて頼めばいいのになと。今回、自分の賞は私一人で作品を審査しているので、100点満点の作品を選べましたが、10人で一緒に審査すると、多くの人がなんとなく点を入れて高得点になった作品に対して、3、4人が「これ絶対良いよ」と思う人に点を入れても勝てない。大賞に選ばれたのに、実はそんなに良いと思っていないということも……。

三嶋:仕事のスタイルはみなさん、さまざまだと思いますが、普段どのようなスタイルでお仕事をしていますか。土日は絶対に仕事しないでメールも見ないというクリエイターもいますが。

大塚:うちは私が作品を生み出す場ではリラックスして「自由にしたい」と思っているので、自分の家みたいな仕事場です。極端にいえば、昼寝しようかなと思うくらい気軽で。若い頃、一人で仕事していた時はパジャマで絵を書いたりもありましたが、最近は物理的に打ち合わせが増えていろいろな人と会ったり出かけることも多いので、メリハリができてきました。休みに関しては、ある担当者の方が「私がお盆休みに入るので、お盆明けに納品してください」と言われることもあったので(笑)、先手を打って「いついつに休みを取ります」と言うようにしてきちんと休むようにしています。

甲谷:私はいかにもオフィスという場所が苦手なので、普通のマンションです。休めないタイプだったので、以前はオンとオフの切り替えができず、ずっと仕事をしていましたね。

内田:少し話がずれますが、前の事務所は陽当たりが悪いとずっと思っていて引っ越ししたんですが、それまで上半期は競合プレゼンで負け続けていたのに、引越し後は1カ月で3個競合に勝って。気の持ちようですが、運気が上がったのかもしれません。

三嶋:オン、オフの切り替えは大事ですね。

大塚:個人的には、やれと言われて結果的に体力がついたり、身についたこともあります。ちょっとサイトにアップして、何人かがダウンロードして、少しお金になったという体験も良いと思いますが、ただ、それだけで満足するのではなく、さらに自分でレベルを上げよう、もっとたくさんつくろうという意欲を持ったほうが良いですよね。そこまでこだわらなくていいよ、となると僕達の仕事は成立しないです。

甲谷:私は上司などもいない分、すべて自分次第なので、だらけないように注意していますね。仕事に対してつねに精一杯やろうと心掛けています。

内田:イラストレーターとして、まだ方向性を模索している時期なら、とにかく描きまくることです。若い時は経験値を貯める努力が大事です。努力は人を裏切りません。その模索を通して自分の個性が磨かれます。私自身も好きな作家の作品を見たり、まねしたり、トークショーに行ったりして勉強しました。また、自分の作品が良いのかどうかわからないことが多いので、自分より絵がうまい人や、志が高い人と話すと勉強になると思います。

三嶋:今はコンプライアンスの問題もあり、会社や周りの人が厳しく言ってこない時代で、クリエイターの仕事の環境も整ってきています。だからこそ、自主的に多くの作品をつくるというアウトプットや、数多くの良質な作品を見るなどのインプットに多くの時間を使うことも大切ですね。そして、今回のように賞やコンペに応募したり、より良い作品をつくるきっかけにしてほしいですね。本日はありがとうございました。

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